MANGA議連、アニメ業界のワーキングプアに危機感 衆院議員・古屋圭司氏が語る施策とは?

 先ごろ、“ブラック労働”の代表例にもなっているアニメーターの給与問題が話題となった。その際、現役のアニメ監督によってつまびらかになったのは、ワーキングプアの現状だけでなく、アニメーター育成の難しさ、業界団体としての問題点であった。そこで今回、超党派で作る議員連盟『MANGA議連』会長の衆議院議員・古屋圭司氏に、政権与党としてこの問題とどう向き合うのかを聞いた。



 現在、MANGA議連(マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟)の会長を務める古屋氏。ワーキングプア化しているアニメ業界の現状については「先日の記事を読みました。もともと、以前からアニメ業界の現状については把握しており、新人アニメーターの年収が110万円であるとか、若いアニメーターは本当に気の毒です」とコメント。その原因として、業界の体質についても触れた。
 「アニメ業界全体が、前近代的なシステムのままだと感じます。市場経済の仕組みが機能していない。今後のアニメ業界のことを考えると、優秀な人材を繋ぎとめることと、人材育成が“柱”のひとつとなります」と分析。そして、人材育成のための施設も必要だと強調した。

 実際、そのための施策として、麻生政権時には“メディア芸術センター”を作ろうと動いていた。
「日本のメディア芸術における国際的な拠点を作ろうと、8年前に120億円の予算を確保しました。しかし残念なことに政権交代によって凍結。ちょうどその頃、中国や韓国が同じようなセンターを作って、日本のアニメーターをはじめとした人材をどんどん引き抜いていったんです。その時に、人材流出の面で非常に危機感を覚えました」と当時を振り返る。

■世界に冠たる“MANGA”コンテンツをアーカイブ化

 かつて柔道が“JUDO”として国際化したように、マンガも今では“MANGA”として世界で認知され、諸外国がこぞってMANGA産業の育成に力を入れている。
 「世界的な競争時代の中、このままではマズイということで、超党派による議員連盟を2014年に立ち上げました。以前は税金で箱物施設を作るのが前提でしたが、それはもうやめようと。今後は民間の力を生かし、PPP方式(民間が事業主体となり、そのノウハウを活用し公共事業を行う)が必要です」と古屋氏。

 では、一体どんな施設を作るのか。

 「その施設では、マンガやアニメといった日本の強みを次世代に継承するため、アーカイブの整備、ミュージアム機能、そして人材の育成を行います。先ほども言ったように、建物に関してはPPPで作るから税金もほとんどかかりません。一方、その施設の一部、アーカイブ部分に『国立国会図書館』の支部機能を持たせるのです。『国立国会図書館』は、国内で出版されたすべての出版物等を収集・保存し、資料の損傷を防ぐためのデジタル化など国会図書館のみに認められた著作権法上の例外も用いて、行政・司法および国民に図書館サービスを無償で提供できることがポイントです」。日本には既に優れた公のデジタル・アーカイブを実現するための枠組みがあるのだから、これを活用して、日本が誇るコンテンツを“アーカイブ化”するのだと古屋氏。

 「MANGA文化は戦後、急速な発展を遂げました。近年、発展を支えた方々の訃報が相次いでいることもあり、業界ではマンガ家やアニメーター、コレクターなどが手元で保管されている貴重な資料を今後どうするかが課題になっていると聞いています。“MANGAナショナル・センター“はこのような寄贈・寄託の受入先としても、期待が寄せられています」(古屋氏)

■政府の方針、および法律で“MANGA文化・技能継承”を支援

 「大事なことは、これは私ひとりの考えではなく、2017年6月に“骨太の方針”という政府の経済財政運営の指針に、『我が国の誇るマンガ、アニメ及びゲーム等のメディア芸術の情報拠点等の整備を進める』と、正式に盛り込まれたことです。つまり、国としてマンガやアニメを応援していくことになったわけです」と古屋氏。さらに、文化芸術振興基本法が16年ぶりに改正されて文化芸術基本法となり、マンガの展示、物品の保存、知識・技能の継承への支援、といったことが明記された。つまり、『法律』と国家運営の指針となる『骨太の方針』で“MANGAのナショナルセンター”を作ることが正式に承認されたのだ。

 また、保護されるのはマンガやアニメだけではない。日本独自の進化を遂げてきたにも関わらず、失われつつある『特撮』の技術、こうした貴重な技術を幅広く保護していくのも、メディアセンターの重要な役割となる。
 「特撮も含め、日本が培ってきた創作物はすべてナショナルセンターに、というのが目標。ここにくればあらゆる創作物の資料がアーカイブされている、そして技術が学べる、そんな施設を目指します。であれば、当然いろいろな企業も集まってきますよね。自然、業界の近代化にもつながるので、いま問題となっているアニメ業界の労働環境改善にも繋がっていくはずです。もちろん、運営に際しては自由な創作活動という日本のMANGA文化を支える表現の自由を損なうことのないよう、十分な配慮が必要です。この点で既に実績のある国立国会図書館がアーカイブ部分を担うことは、表現の自由を保証する制度的裏付けになります」

 なお、このセンターは、ゲーム・アニメ・マンガの聖地である秋葉原エリアを想定。数年後には、世界の“MANGAの聖地“になる。そして日本の強みを生かし、世界に日本の文化を発信するのだと同氏。

■日本の創作文化、業界を守るために“コミケ会場問題”を解決

 古屋氏は、昨今話題になっている“コミケ問題”にも言及。これは、五輪期間中に東京ビッグサイトがメディア施設として使用されるため、コミケ会場として使用できなくなるという問題。
 「さまざまなイベントや展示会で使用されるビッグサイトは、中小企業のユリカゴです。ユリカゴが使えないと、中小企業にとっても、創作をする人々にとってもマイナス。数兆円規模の経済損失という試算もあります。もちろん五輪にも全力を尽くしますが、一方で、ビッグサイトを活用する方々のマイナスを最小限にするための知恵を出す必要があります。私は、コミケ開催時はビッグサイトが使えるように、五輪施設を上手に分散にすべきだと考えます。なので、五輪期間中もこれまで同様ビッグサイトを使えるよう政府と交渉中です。これは政府与党として取り組む問題ですから、しっかりやります」
 なにより、そのために『骨太の方針』と、『芸術文化基本法』を定めてあるわけだと力説。ゴリ押しでビッグサイトを使おうというのではなく、ちゃんと法律にのっとって、ルール通りにやるのだと古屋氏。

■業界の劣悪な環境を改善するため税制面の措置も検討

 どんな業界でも、新しいチャレンジをする際は、税制の優遇などを含め政策誘導をする。昨今のアニメ業界の問題を鑑み、税制面について議員連盟と党のプロジェクトチームでテーマとしてあげていると古屋氏は語る。
 「税制改正は要求して即できる、というものではなく数年はかかるため、『すぐりやります』という空手形はきれません。ただし、ナショナルセンターができ、近代的な運営ができるようになった時に、税制面も整備していく。つまり、人材の育成、業界の環境整備、そして税制の措置と、すべてセットになっています」

 古屋氏は昨今、以前に比べて国内でのMANGA、クールジャパンへの理解度と支援は格段に向上していると感じている。
 「地方公共団体の首長とか知事が、日本のソフトパワーって凄いぞと、地方創生に活用できる、という認識に変わっている。かつてマンガ、アニメや特撮、ゲームといえば低く見られたが、もうそんなことはない。その文化を支えている人々も含め、決してサブカルではなく、今はメインカルチャーなんです。今後、新しい日本経済を支えていくのは、そうしたソフトパワー。ただ、発展のスピードに対して業界団体の経営の近代化が遅れている現状も。なので、それを変えていくための拠点として、ナショナルセンターは必ず役に立つはずです」(古屋氏)





元の記事はこちら==>http://news.ameba.jp/20170804-286/

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